攻撃性(aggression)の誤解:ドッグウォーカー博士のスローライフ
なので、「またか」と思われるかもしれないが、今回はちょっと観点が違う。
これまでは噛み付きなどの攻撃行動の「なおし方」について、応用行動分析学の知見に依拠した行動的アプローチを取り上げてきたのだが、今回は「行動」の修正ではなく、ヒトが考える犬の「攻撃性」(aggression)について書いてみたい。
「この犬は攻撃的だ」という言説を、私たちはよく耳にする。
それは犬が次のような行動をよくするということを意味する。
唸る、吠える、歯をむき出す、突進する、噛みつく、などである。
これらの行為をするということについて、「攻撃的」という形容詞が与えられているのである。
だが、攻撃的という形容詞が修飾するのは� �なのか、すなわち、攻撃的な行動なのか、攻撃的な性格なのか、攻撃的な素質なのか、それとも別の何かなのか。
私はこれまで、攻撃的な「行動」について書いてきたが、一般的には攻撃的な「性格」として語られる場合が多い。
その犬を、すぐに攻撃する性質と言ってみたところで、行動の修正には何の役にも立たないので、多くのトレーナーは、「なぜこの犬は攻撃するのか」という原因について考え、対策を立てる。
一昔前の古い考え方によれば、次のように説明される。
犬が攻撃的なのは、犬が飼い主よりも自分の方が順位が上だと思っているからである。それは、飼い主が犬の言うなりになっているからだ。また、空間的位置関係も順位の確定には重要なので、自分よりも高い場所に上がら� �たりせずに、自分がしっかりとリーダーの位置におさまらなければならない、と。
ドイツのsheperdはいくらですか
一見、犬の考え方に照準を合わせた認知的アプローチのように見えるが、残念ながら「犬が飼い主よりも自分の方が順位が上だと思っている」となぜ言えるのだろう。
その根拠として、主従関係は犬の特性そのものであると証明されていることをあげていたりするのだが、残念ながら主従関係=「完全タテ型の上下関係」なるものが犬の特性であるという説は、証明されていないばかりでなく、21世紀の犬に関する諸研究においては否定されつつあるのである。
それに対し、現代の行動(主義)的アプローチでは、犬がその行動を行うA きっかけと、B 行動することによるC 結果の対応関係を分析し、それらをコントロールすることによって、攻撃行動を変えていこうとする。
この場合、攻撃的な「行動」そのものを問題にするので、攻撃的な「性格」かどうかは問題にならない。
実際に目の前にいる犬の行動をなおさなければいけない場面では、こうしたアプローチが適しているだろう。
だが、ちょっとその場面を離れてみると、ウーと唸るとかガウガウ言うなどの行動を、「攻撃的」と形容詞していいのかという疑問がおこる。
犬の唸り声や口を使った行動は、ヒトにとっては「攻撃的」行動に見えるのだが、犬にとってはコミュニケーション的行動なのだ。
ヒトはこのことをよく理解する必要がある。
たとえばこんな状況を想像してみよう。
ひとりで早朝の森を散歩して いると、突然死角になった曲がり角からクマが出てきた。
びっくりして大声で「ぎゃー」と叫ぶ。
だがクマは近寄ってくる。
思わずクマの目を見ながら手をめちゃくちゃに振り回すと、さらに寄ってきて前足でなぎたおされた。
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この経緯をヒトとクマのコミュニケーションという視点から見てみよう。
ヒトは一生懸命「あっちへ行け」と意思表示している。
だがクマは、急にヒトが出てきてびっくりした上に、目を見つめられて暴れられたので、先制攻撃を仕掛けた(闘争・逃避反応)。
この場合のヒトを、攻撃的な行動を取ったとは言えないし、ましてや攻撃的な性格などとはとても言えない。
だが、これが犬だったら、平気で攻撃的な犬と言ってしまうのである。
ヒトはよく、真正面から犬に近づき、犬の頭の上に覆いかぶさるようにかがみこみ、犬の頭の上に手を伸ばし、目をぐっと見つめて、マズルをつかみ、上下に振る。
これらわれわれが何� ��なくやっている一つ一つの行為すべてが、犬にとっては「怖い」と感じる行動である。
だが、犬という動物は、こういう無作法なことをされても、すぐに噛み付いたりなどしない。
まばたきして、顔を横に背け、舌をぺロッとするというカーミングシグナル(相手をなだめるボディシグナル)を出して、犬の言葉で「やめて」と言う。
なお、こうした犬のボディランゲージについては、動物行動学の領域で研究がなされている。
それでも人間がやめないと軽くウーと唸る。
それから、ガルガル唸り、歯をむき出し、口を当て、空噛みし、歯を当て、噛み付くというふうに、段階的に強く「やめて」を言うのである。
犬が小さな声で穏やかに「やめて」と言ったときに聞き入れてあげれば、そこから先の行動� �阻止できるのだが、多くの人は犬の言葉に気づかないため、「攻撃的な」行動を招いてしまう。
そこでヒトは、「うちの犬は攻撃的だ。自分がリーダーにならなければ」などと考えはじめる。
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これは完全に誤解している例だが、残念なことにとても一般化している。
ヒトが攻撃的と呼んでいる行動は、怖がっている犬が恐怖から逃れ、平和的な状態を取り戻すためのコミュニケーション的行動であることがほとんどである(その他にはストレスや、社会性の不足などの原因が考えられる)。
だからヒトは、犬が「攻撃的な」行動をしなくてもすむように、犬が怖がる行動をしないようにしよう。
真正面から近づくとか、頭を触ろうとするなどは、犬好きなヒトがよくやる行動だ。
犬の体に手を回してギュッと抱きしめるなどというのも、犬にとっては恐ろしい、あるいは嫌な行動である。
←妹がボニちゃんにやっているところ。
瞬間に目をつぶっている。
そんな時、犬がどのようなしぐさをしているか、ビデオ撮影してみるとよくわかるだろう。
顔を背け、舌をしきりにペロペロし、あげくにアクビまでしていないだろうか。
口をぺちゃぺちゃしたり、アクビをしたりというのは、強い緊張状態にあるときに見せる行動である。
飼い主がかわいがっているつもりの行動が、実は犬を嫌がらせているということに、まず気がついてあげよう。
犬が一生懸命その気持ちを伝えようとしているのに、ヒトがなかなか気づいてあげないと、もっと強いシグナル、たとえば唸るなどの行動で伝えようとする。
しかし、その行動が罰せられて封じこめられると、いきなりもっと強いシグナル、たと えば噛み付くという行動で知らせようとするようになる。
キケンなことだ。
無理やり爪切りをしようとしたり、無理やりブラッシングをしようとして、噛み付くようになってしまったということの背後には、こんな経緯が隠れている。
自分の犬の「攻撃性」が気になったら、自分が怖がらせ行動をしていないか、振り返ってみよう。
ましてや、「怖いよう、やめてよ」と言っているのに、叱りつけたりしたら、犬はどんな気分になるだろう。
想像力を働かせてみよう。
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