イヌ - Wikipedia
イヌ(犬、狗、学名:Canis lupus familiaris、ラテン語名:canis、英語名[国際通用名]:dog、domestic dog)は、ネコ目(食肉目)- イヌ科- イヌ属に分類される哺乳類の一種。
属名 Canis、種小名 lupus はラテン語でそれぞれ「犬」「狼」の意。亜種名 familiaris はやはりラテン語で、「家庭に属する」といった意味。また、英語: familiar、フランス語: familier など「慣れ親しんだ」を意味する現代語の語源でもある。
イヌはカール・フォン・リンネ(1758年)以来、伝統的に独立種 Canis familiaris とされてきたが、イヌをタイリクオオカミ (Canis lupus) の亜種の一つとする学説(1993年、D.E.Wilson and D.A.M.Reeder)が、現在では受容されつつある。また、異説ではジャッカルから分化したとする。イヌ科の始原的動物(最古の祖先)と考えられるへスペロキオン(en、イヌ科ヘスペロキオン亜科[en])は約3,800万年前(古第三紀始新世後期前半)、ミアキス科(en)から分化し、北アメリカ大陸の平原地帯で誕生した。この系統はその後、約2,300万年前(中新世)にはユーラシア大陸へ分布を拡げながらいっそうの進化を遂げてイヌ亜科の直接的祖先と目されるトマルクトゥス(en)を生み出し、アフロ・ユーラシア大陸全域に適応放散し、そしてまた、アメリカ大陸にも移動して古い時代の種を一掃していったと考えられている。
広義の「イヌ」(後述)と区別して「イエイヌ」(英語名:domestic dog)とも言うが、これは伝統的な学名 C. familiaris(家族の-犬)に対応した呼称。
また、広義の「イヌ」は広くイヌ科に属する動物(イエイヌ、オオカミ、コヨーテ、ジャッカル、キツネ、タヌキ、ヤブイヌ、リカオンなど)の総称でもあるが、日本ではこちらの用法はあまり一般的ではなく、欧文翻訳の際、イヌ科動物を表す dogs や canine の訳語として当てられるときも「イヌ類」などとしてイエイヌと区別するのが普通である。以下では狭義のイヌ(ヤマイヌなどを除くイエイヌ)についてのみ解説する。
イエイヌは人間の手によって作り出された動物群である。最も古くに家畜化されたと考えられる動物であり、現在も、ネコ Felis silvestris catus と並んで代表的なペットまたはコンパニオンアニマルとして、広く飼育され、親しまれている。
野生化したものを野犬(やけん、のいぬ)といい、日本語ではあたかも標準和名であるかのように片仮名で「ノイヌ」と表記されることも多いが、分類学上は種や亜種としてイエイヌと区別される存在ではない。
犬種については犬の品種一覧を参照。現在、ジャパンケネルクラブ (JKC) では、国際畜犬連盟 (FCI) が公認する331犬種を公認し、そのうち176犬種を登録してスタンダードを定めている。
世界全体では4億匹の犬がいると見積もられている。血液型は8種類。
[編集] シノニム
Canis lupus familiaris のシノニム(異名)を示す。なかでも太字は有力説に基づくものである。
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イヌの染色体は78本 (2n) あり、これは38対の常染色体と1対の性染色体からなる。これは同じイヌ属のディンゴ、オオカミ類、ジャッカル類、コヨーテ類などとも共通である。これらの種は交配可能であり、この雑種は生殖能力をもつ。ただし、これらは行動学的に生殖前隔離が起こり、また、地理的にも隔離されている。ジャッカル類は主にアフリカとアジアに、コヨーテ類は北アメリカ大陸に分布する。
また、オーストラリア大陸と周辺地域に生息するディンゴと、ニューギニア島に生息するニューギニアン・シンギング・ドッグは、人類によって約4,000年前に持ち込まれたイヌであり、かつては別種とされていたが、現在はイエイヌとともに、タイリクオオカミの1亜種とされている。
[編集] 生態的・形態的特徴
イヌの属するイヌ科は、森林から開けた草原へと生活の場を移して追跡型の狩猟者となった食肉類のグループである。待ち伏せ・忍び寄り型の狩りに適応したネコ科の動物に対して、イヌ科の動物は、細長い四肢など、持久力重視の走行に適した体のつくりをしている。
また、イヌは古くから品種改良が繰り返されて、人工的に改良された品種には、自然界では極めて珍しい難産になるものも多く、品種によっては、出産時に帝王切開が必要不可欠となる(主にブルドッグ)。
[編集] 骨格
イヌの歩き方は、指で体を支える趾行(しこう)性で、肉球(4つの指球(趾球)と1つの掌球(蹠球))と爪が地面につく。爪は先が尖っており、走るときにスパイクのような役割をする。ただし、ネコ科のものほど鋭くはない。爪を狩りの道具とするものが多いネコ類とは異なり、イヌ科の動物は爪を引っ込めることができず、各指はほとんど広げることができない。ネコ類と同じく、第3指(中指)と第4指(薬指)の長さが同じである。後肢の第1指(親指に相当する)は退化して4本指の構造となっているが、たまに後肢が5本指のイヌもいる(こうしたイヌの後肢の第1指は「狼爪(en)」と称する)。前肢は5本指の構造となっているが、やはり、その第1指も地面には着かない。一部のマウンテンドッグは狼爪が二本あるものもある。� ��爪は幼少時に切除される場合が多いが、前述のマウンテンドッグの場合には切除しない。
前肢はほとんど前後にしか動かず、鎖骨は失われている。逆に股関節は、靭帯による制約が少ないために、他の家畜類に比べて可動性が広く、後肢を頭を掻くのに用いたりし、また、雄は排尿時に高く持ち上げるが、陰茎の位置からして大型犬のほうが有利ではある(雌はしゃがんで少し上げる)。反面、靭帯が少ないことは、しばしば股関節脱臼を起こす原因ともなっており、高齢犬・著しく体重が増えた犬・大型犬でその傾向が高い。
肋骨は13対で、ヒトより1対多く、走るのに必要な肺と心臓は、体のわりに大きい。心臓はネコ目(食肉目)の他のグループの動物と違って球形に近く、特に左心室が非常に大きい。
尾は走行中の方向転換で舵として働くが、オオカミなどと比べると細く短くなっており、また、日本犬に多く見られるように巻き上がっているものがあるのは、筋肉の一部が退化して弱くなっているためである。
陰茎に陰茎骨を具えていることも特徴である。
[編集] 歯
歯式は 3/3・1/1・4/4・2/3=42 で歯は42本(21対)あり、32本(16対)の歯をもつヒトや、28- 30本のネコと比べると、顎が長い分、歯の数も多い。ヒトと比較すると、切歯が上下各3本、前臼歯(小臼歯)が各4本と多く、後臼歯(大臼歯)は上顎で2本(下顎は3本)と少ない。イヌ亜目に共通の身体的特徴として、犬歯(牙)のほかに、裂肉歯と呼ばれる山型にとがった大きな臼歯が発達している。この歯は鋏(はさみ)のようにして肉を切る働きをもつ。裂肉歯は、上顎の第4前臼歯と、下顎の第1大臼歯である。食物はあまり咀嚼せずに呑み込んでしまう。
[編集] 消化器
イヌ科グループの他の動物と同様、イヌは基本的には肉食であるが、植物質を含むさまざまな食物にも、ある程度までは適応する。消化管はそれほど長くないが、腸の長さが体長(頭胴長)の4- 4.5倍程度であるオオカミに対して、イヌのほうは5- 7倍と、いくらか長くなっており、これも植物質の消化に役立っている。肉食獣の中には盲腸をもたない種も存在するが、イヌはそれほど大きくないものの 5- 20cm程度の盲腸をもつ。
年を安楽死させ、どのように多くの動物
[編集] 腺
イヌの耳下腺は、副交感神経性の強い刺激を受けると、ヒトの耳下腺の約10倍のスピードで唾液を分泌する。唾液は浅速呼吸(喘ぎ)により、口の粘膜と舌の表面から蒸散する。激しい運動のあと、イヌが口を開け、舌を垂らしてさかんに喘いでいるのはこのためである。イヌの体には汗腺が少ないが、この体温調節法は汗の蒸発による方法と同じくらい効果的であるという。
肛門には肛門嚢(こうもんのう)と呼ばれる一対の分泌腺があり、縄張りのマーキングに使われるにおいの強い分泌液はここから出ている。ジャコウネコやハイエナのように外に直接開いてはおらず、細い導管で肛門付近に開口している。なお、イヌが雨に濡れたときなどに特に匂う独特の体臭は、主に全身の皮脂腺の分泌物によるものである。
[編集] 嗅覚
警察犬の遺留品捜査や災害救助犬の被災者探索等でよく知られるように、イヌの感覚のうち最も発達しているのは嗅覚であり、においで食べられるものかどうか、目の前にいる動物は敵か味方かなどを判断する。また、コミュニケーションの手段としても、ここはどのイヌの縄張りなのかや、相手の犬の尻のにおいを嗅ぐことで相手は雄か雌かなどを判断することでも嗅覚は用いられたりする。そのため、イヌにとっては嗅覚はなくてはならない存在である。
イヌの嗅覚はヒトの数千から数万倍とされるが、その能力は有香物質の種類によっても大きく異なり、酢酸の匂いなどはヒトの1億倍まで感知できる。嗅覚は鼻腔の嗅上皮にある嗅覚受容神経(嗅覚細胞)によって感受されるが、ヒトの嗅上皮が3-4cm²なのに対し、イヌの嗅上皮は18-150cm²ある。嗅上皮の粘膜を覆う粘液層中に分布する、「嗅毛」と呼ばれる線毛は、においを感覚受容器に導く働きをするが、イヌの嗅毛は他の動物のそれより本数が多く、長い。嗅細胞の層も、ヒトでは一層であるのに対して、イヌでは数層になっており、ヒトの500万個に対し、2億5千万から30億個あると推定されている。鼻腔の血管系もよく発達している。ヒトが顔や声について特別な記憶力をもつように、イヌは匂いについての優れた記憶力をもっている 。イヌを含む動物群の鼻先のいつも湿っている無毛の部分を「鼻鏡」と呼ぶが、これもイヌのすぐれた嗅覚を保つのと同時に風の向きを探る働きをすると考えられる。
上述のようにイヌが嗅覚に優れた動物であることは事実であるが、ただし、他のさまざまな動物に比してイヌの嗅覚だけが特別に秀でているということではない。イヌ同様に探索目的での使役が多いブタ(イノシシ類)も引けを取らないと考えられているし、クマの研究者によればクマ類の嗅覚はイヌ(イエイヌ)の約7倍とされている。ゾウは嗅覚細胞の総量から言っても、能力においてイヌやクマを遥かに上回る動物として知られている。なお、魚類ではウナギの嗅覚がイヌの嗅覚に匹敵するとされる[6]。
[編集] 聴覚
イヌは聴覚も比較的鋭い。また、可聴周波数は 40-47,000 Hz とヒトの 20-20,000 Hz に比べて高音域で広い。超音波を発する笛である犬笛(約30,000 Hz)はこの性質を利用したもの。聴力において、犬種による違いはほとんど見られない。
[編集] 視覚
優れた動体視力を持っており、1秒間に30フレームを表示するテレビ画像などはコマ送りにしか見えない。一方、イヌの眼には赤色に反応する錐状体の数が非常に少ないといわれ、明るいときには赤色はほとんど見えていない可能性が高い。色の明暗は認識できるが、全色盲に近いと考えられている。信号機だけは識別できるとされていたが、実はこれも灯火の点灯順序と人間の動きを関連づけて学習していたに過ぎない事が確認されている。ネコやキツネの瞳孔が縦長であるのに対し、イヌの瞳孔は収縮しても丸いままである。
[編集] 出産と成長
メスの発情周期は7 - 8か月であるが、犬種により差がある。妊娠期間は50 - 70日。3 - 12子を一度に出産するため、乳房を左右に5対持っているのが一般的である。生誕6- 12か月目で成犬の大きさになり、その後、2- 3か月目で性熟する。これはオオカミの2年に比べて早熟である。小型犬は成犬に達するのが早い分、性熟も早い。
[編集] 寿命
イヌは10歳になると老犬の域になり12歳から20歳程度まで生きる。ただし犬種や生育環境によっても異なり、基本的に大型犬のほうが小型犬よりも短命である。また、一般的には屋外飼育よりも室内犬のほうが長命の傾向があり、純血種よりも雑種のほうが長命と言われる。歳を取るスピードは若いほど早く成犬となってからは緩やかとなる。イヌの年齢をヒトの年齢に換算する方法は諸説あるが、科学的根拠に基づいたものではなく必ずしも正確ではない。目安として、小型犬は生後1年でヒトの約17歳、生後2年で約24歳、大型犬は生後2年で約20歳、それ以降は小型犬で1年につきヒトの4歳程度分、大型犬は5-6歳程度分、歳を取ると考えられる。転じて、年単位で数年分に匹敵する急速に発達した科学技術(パソコン・携帯電話等)を指し� �「ドッグイヤー」と呼ぶことがある。
近年、飼育環境の改善やフィラリア予防等の動物医療の普及などによって、犬の平均寿命は伸びる傾向にある。
2011年現在、ギネスブックにて「生存する世界最高齢のイヌ」と認定されているのは、日本の栃木県に暮らす「プーすけ」で、2011年10月現在で26歳7か月[7]。記録が残っている最も長く生きた犬はオーストラリアの牧畜犬「ブルーイ」で、29歳5か月だった。
[編集] 社会性
イヌの特徴としてヒトと同じく社会性を持つ生き物であることが挙げられる。意思疎通をするための感情や表情も豊かで、褒める、認める、命令するなどの概念を持っている。ヒトに飼われているイヌは、人間の家族と自身を1つの群れの構成員と見なしていると考えられ、群れの中の上位者によく従い、その命令に忠実な行動を取る。この習性のおかげでイヌは訓練が容易で、古くからヒトに飼われてきた。最古の家畜とする説が有力である。子犬を入手して飼う場合には、親犬の元での犬社会に対する社会化教育と新しい飼い主と家庭および周囲環境への馴化(じゅんか)との兼ね合いから、ほぼ6週齢から7週齢で親元より直接譲り受けるのが理想的とされる。
[編集] 知能
品種によっては優れた学習能力を示す。他の犬に対して関心を示し、威嚇する行動を執る品種とそうでないものがある。他の犬への関心の示し方、攻撃性は、躾(しつけ)によっても抑えることはある程度可能である。
[編集] イヌに悪影響を与える食べ物
イヌの健康に影響を与える食べ物については、それが良い影響なのか悪い影響なのかを問わず、科学的にすべてが解明されているわけではない。現在、健康によい、もしくは無害とされている食べ物でも、将来的に悪影響が判明したり長期的な調査によって長期間の摂取が好ましくないとされたりする可能性がある。 以下に挙げる物は健康への悪影響が判明している食べ物であり、これらのものを好んで食べるイヌもいるため、飼い主が与えない、もしくは、拾い食いさせないように注意されている。
犬のてんかん発作のラブラドール
- これは、チョコレート類に含まれるテオブロミンという成分によって中毒を起こすためである。ネコにも同様の理由で悪影響を与える。
- これは、ネギ類に含まれる成分がイヌの赤血球を溶かし、貧血を起こすためである(タマネギ中毒)。ネコも同様である。
- 噛み砕いた際にササクレ状に割れるため飲み込んで消化管穿孔の原因になることがある。特に加熱されたものが危険。
[編集] イヌの起源
イヌの起源も参照。
イヌは最も古くに家畜化された動物である。手に仔犬(イヌかオオカミかはっきりしない)を持たせて埋葬された、1万2千年ほど前の狩猟採集民の遺体が、イスラエルで発見されている。分子系統学的研究では1万5千年以上前にオオカミから分化したと推定されている。イヌの野生原種はタイリクオオカミ (Canis lupus) の亜種のいずれかと考えられている。イヌのDNAの組成は、オオカミとほとんど変わらない。イヌがオオカミと分岐してからの1万5千年という期間は種分化としては短く、イヌを独立種とするかオオカミの亜種とするかで議論が分かれているが、交雑可能な点などから亜種とする意見が優勢となりつつある。本項の分類もそれに従っている。イヌとオオカミの交雑に関しては、別項「狼犬(ハイブリッドウルフ)」も参照のこと。
[編集] 人間社会との関わり
元来は、住居の見張り、次いで狩猟の補佐などのために家畜化されたと考えられるが、現在はほとんどが愛玩用であり、日本ではおよそ5世帯に1世帯がイヌを飼っている。長い年月をかけて交配が試みられ、ダックスフント、トイ・プードル、ブルドッグなど、用途に応じたさまざまな品種が開発されてきた。19世紀に生まれたケネルクラブによって、外形、気質などにより犬種の人為的な選別が進んだが、20世紀以降に生まれた新犬種の多くは、見た目だけのために作られたものが多い。犬は人間によって最も人為的改良をくわえられた動物であると言える。
「シェイプシフター」(変身動物)と呼ぶ研究者がいるように、小さなチワワから大型のセント・バーナードまで、幅広いサイズと形態をもつ。
イヌは、下記のような形で人間に利用され、あるいは人間と関わってきた。
犬の肉は数千年前から食用とされてきた[8]。アジアでは今も年間1600万匹の犬が消費されており、特に中国ではよく食べられている[9]。韓国でも伝統的に犬を食べる習慣があり、年間消費量は100万匹[10]。現在の韓国でもポシンタン料理の店は普通に見られる。ただしペットとして犬を飼う韓国人も100万人以上、犬肉食に反対する人が55%に上っている(ただし、同じ調査で犬肉禁止への賛成は25%であった)[10]。フィリピンでは1998年に犬肉食が禁止されたが今も食べられている[9]。コンゴ川の流域では、肉を柔らかくするためイヌをじわじわとなぶり殺しにする[9]。
[編集] 犬と歴史・文化
人間と暮らし始めた最も古い動物である犬は、民族文化や表現の中に登場することが多い。
古代メソポタミアや古代ギリシアでは彫刻や壷に飼い犬が描かれており、古代エジプトでは犬は死を司る存在とされ(→アヌビス神)、飼い犬が死ぬと埋葬されていた。紀元前に中東に広まったゾロアスター教でも犬は神聖とみなされるが、ユダヤ教では犬の地位が下り、聖書にも18回登場するが、ここでも豚とともに不浄の動物とされている。イスラム教では邪悪な生き物とされるようになった。現在でもイスラム圏では牧羊犬以外に犬が飼われることは少ないが、欧米諸国では多くの犬が家族同然に人々に飼われている。日本でも5世帯に1世帯が犬を飼っているといわれている。中世ヨーロッパの時代には、宗教的迷信により、魔女の手先(使い魔)として忌み嫌われ虐待・虐殺された猫に対し、犬は邪悪なものから人々を守るとされ 、待遇は良かった。
古代中国では境界を守るための生贄など、呪術や儀式にも利用されていた。知られる限り最古の漢字である甲骨文字には「犬」が「」と表記され、「けものへん(犬部)」を含む「犬」を部首とする漢字の成り立ちからも、しばしばそのことが窺われる。古来、人間の感じることのできない超自然的な存在によく感応する神秘的な動物ともされ、死と結びつけられることも少なくなかった(地獄の番犬「ケルベロス」など)。漢字の成り立ちとして、「犬」の「`」は、耳を意味している。
日本においては縄文時代の遺跡から埋葬された犬が見つかっており、古代日本人とともに犬を飼う習慣が日本列島に渡ってきたと考えられる。また、弥生時代の長崎県の原の辻遺跡などでは、解体された痕のある犬の骨が発見され、食用に饗されたことも窺える。『日本書紀』には日本武尊が神坂峠を超えようとしたときに、悪神の使いの白鹿を殺して道に迷い、窮地に陥ったところ、一匹の狗(犬)が姿を現し、尊らを導いて窮地から脱出させたとの記述がある。そして、『日本書紀』には天武天皇5年4月17日(675年)の条に、4月1日から9月30日の期間、牛・馬・犬・猿・鶏の、いわゆる肉食禁止令を出しており、犬を食べる人がいたことは明らかである。なお、長屋王邸跡から出土した木簡の中に子を産んだ母犬の餌に米(呪術的な力� ��源とされた)を支給すると記されたものが含まれていたことから、長屋王邸では、貴重な米を犬の餌にしていたらしいが、奈良文化財研究所の金子裕之は、「この米は犬を太らせて食べるためのもので、客をもてなすための食用犬だった」との説を発表した。奈良時代・平安時代には貴族が鷹狩や守衛に使う犬を飼育する職として犬養部(犬飼部)が存在した。鎌倉時代には武士の弓術修練の一つとして、走り回る犬を蟇目矢(ひきめや。丸い緩衝材付きの矢)で射る犬追物や犬を争わせる闘犬が盛んになった。江戸幕府中期、江戸では野犬が多く、赤ん坊が食い殺される事件もあった。5代将軍・徳川綱吉は戌年の戌月の戌の日の生まれであったため、彼によって発布された「生類憐れみの令」(1685- 1709年)において、犬は特に保護(生類憐れみの令は人間を含む全ての生き物に対する愛護法令)され、元禄9年(1696年)には犬を殺した江戸の町人が獄門という処罰まで受けている。綱吉は当時の人々から「犬公方」(いぬくぼう)とあだ名された。綱吉自身大の愛犬家で狆を百匹飼い、駕籠(かご)で運ばせていた。この法令が直接適用されたのは幕府の直轄領であったが、間接的に適用される諸藩でも将軍の意向に逆らうことはできなかった(ただし、この法令には戦国時代の影響の残る暴力的な気風を抑える目的があったという面も最近では指摘されている)。一般に明治以前までは農村などでは狸や狐と同様に食用とされることもあったが、食糧難の第二次世界大戦後しばらくまではその風習は各地で残り、忠犬ハチ公の子孫が盗� ��に遭い、食べられてしまったという記事が当時の新聞に残る。
いじめっ子は犬をいじめる
欧米諸国では、古代から狩猟の盛んな文化圏のため、猟犬としての犬との共存に長い歴史がある。今日では特に英国と米国、ドイツなどに愛犬家が多い。世界で最古の1873年に設立された愛犬家団体である英国のケンネルクラブと1884年に設立された米国のアメリカンケンネルクラブがそれを物語っている。ヨーロッパ諸国の王家や貴族の間では、古来、伝統的に愛玩用・護衛用・狩猟用などとして飼われている。特にイングランド王のチャールズ2世およびエドワード7世は愛犬家として有名である。英国の女王ヴィクトリアはコリーなどの犬を多数飼っていた。現在の英国女王エリザベス2世も愛犬家で知られている。英国王室は今でも犬舎を所有して飼育と繁殖を行っている。プロイセン(ドイツ)のフリードリヒ大王は常に身辺に数匹� �イタリアン・グレーハウンドを侍らせていた。大王はポツダムにある墓所に愛犬達とともに葬られた。政治家では歴代のアメリカ合衆国大統領に愛犬家が多い。特にクーリッジ大統領とフランクリン・ルーズベルト大統領は愛犬家として有名である。近年ではジョージ・W・ブッシュ前大統領も愛犬家。
西洋では一般的に親しまれている犬だが、サウジアラビアでは一般に嫌悪の対象である[12]。コンゴのムブティ族は、犬を狩りに必要な「貴重な財産」と見なしつつも忌み嫌っており、彼らの犬は馬鹿にされ殴る蹴るなどされる[12]。欧米では犬をペット・家族の一員と考えるため犬肉食はタブー視されるが、一方、インドや中東で犬肉を食べる習慣がないのは、古代ヒンドゥー教やイスラム教では犬を卑しく汚らわしい害獣と見なしているためだと考えられる[13]。
犬は一般に出産が軽い(安産)とされることから、日本ではこれにあやかって戌の日に安産を願い、犬張子や帯祝いの習慣が始まるようになる。
「人間の最良の友 (Man's best friend)」と言われるように、その家族に忠実なところでプラスイメージもあるが、東西の諺や、日本語にある「犬死に」「犬侍」「犬じもの」「負け犬」などといった熟語では、良い意味で使われることはあまりない。また、忠実さを逆手にとって、権力の手先やスパイの意味でも「犬」が用いられる。また「雌犬」は女性への侮辱語として使われる。植物の和名では、イヌタデ、イヌビエ(en)など、本来その名をもつ有用な植物と似て非なるものを指すのにしばしば用いられる。
[編集] 犬の鳴き声のオノマトペ
[編集] 日本語
犬の鳴き声を、現代日本では、一般的に「わんわん(ワンワン)」「きゃんきゃん(キャンキャン)」などの擬音語(オノマトペ、声喩)で表されるのが普通である。そのため、これらの語を元にして犬のことを「ワンちゃん」「わんこ(ワンコ)」「わん公(ワン公)」などとも俗称する。なお、日本語では擬音語が発達しており、他にも「ぐるるる(グルルル)」「うぉーん(ウォーン)」「くーん(クーン)」「きゃいーん(キャイーン)」等々、犬の感情の機微を捉えようとする多様な表現が生み出されている。
歴史的には「ひよひよ」「べうべう」などと書いて「ビョウビョウ」(研究者によっては「びよびよ」と表現[14])と発音していた期間が長く、狂言の台詞などにその名残を見て取れる。江戸時代になって「わんわん(ワンワン)」が現われ、しばらくの間は従来語と共存していた[14]。
[編集] 日本語以外
英語では bow-wow (仮名転写[以下同様]:バウワウ)、bark (バーク)、howl (ハウ)など、ロシア語では Гав-гав (ガフガフ)、中国語では「汪汪(ワンワン)」と鳴くとされる。
[編集] 犬を主題とした作品・キャラクターなど
犬は、マスコットや、漫画など現代的フィクションのキャラクターなどとしても頻繁に登場する。犬がテーマとなった、あるいは、犬を主要なキャラクターとする映像作品・文学作品等については、イヌを主題とする作品一覧、Category:架空の犬を参照。
[編集] 歴史に名を残した犬
人間との共生が最も古い動物故に多くの犬たちが名犬とされてきた。 ノンフィクションの分野でも、忠犬ハチ公や南極物語などのように、実在した犬にまつわるエピソードや芸術作品などが数多く存在する。 (以下の犬たち以外にも名を残したのも多くいる。)
- 1700年代
- 1781年 名前不明(狆) - 酒井雅楽頭の愛犬。光格天皇より六位の位を下賜された。
- 1880年代
- 1889年 ツン(薩摩犬) - 西郷隆盛のウサギ狩時の愛犬である雌犬。上野恩賜公園に立てられた銅像にその銅像が寄り添って立てられた(製作者は後藤貞行、モデルは仁礼景範海軍中将の飼い犬である雄犬)。
- 1895年 オウニー(雑種) - 1888年に米国のニューヨーク州の郵便局のマスコットとなり、郵政長官から旅行許可証を貰い、船に乗って世界一周をした。
- 1900年代
- 1930年代
- 1940年代
- ブロンディ(ジャーマン・シェパード・ドッグ) - ナチスドイツの総統ヒトラーの愛犬。1945年ベルリンの防空壕で主人と運命をともにした。
- チップス(雑種) - 第二次世界大戦中数々の勇敢な行為により、アメリカ陸軍から二つの勲章を授与された。
- 1950年代
- 1980年代
- 盲導犬サーブ - 冬の日に飼い主を事故から守り足にけがを負った。
- 2000年代
- 2008年 ベラ(シープドッグ系雑種) - ギネス非公認の世界最高齢記録保持犬。3歳の時に保護されたが、正式な出生証明書が無かった為、ギネス記録として公認されず。2008年、老衰により29歳で死去。
- 2009年 シャネル(ワイアーヘアード・ミニチュア・ダックスフント) - ギネス公認の世界最高齢記録を保持していた犬。生後6か月の時、収容施設から保護された。2008年8月28日、老衰により21歳で死去。
近年高まるペットブームの中、一部の業者によって人気品種の乱繁殖が行われている。日本ブリーダー協会は近親交配の結果、先天的障害を持つ犬が増加していると警告している。生まれながら障害を発症している犬は処分されることが多い。国はこうした障害犬の増加を受け、動物管理法を改正し悪質業者を処分できるようになった。しかし、結局のところ消費者の意識が変わらなければ障害犬を産む乱繁殖をとめることは難しい。
[編集] 犬の登場する諺・故事成語
五十音順に並べる。
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[編集] 名前にイヌを持つもの
生物の名、特に植物の名で、イヌが付くものも多い。イヌの特徴などに似ていることによるものもあるが、多くの場合、イヌが付かないものに比べて、より有用性が低かったり、使えなかったりすることを意味する。(派生語も参照のこと)
[編集] その他 イヌについて
- 行動学からの詳細な議論については、(データとしては古くなってしまうが)コンラート・ローレンツの『人イヌに会う』(至文堂)を参照するとよい。
- 犬はしっぽを右に振って喜びを、左へ振って警戒を表現するという説がある[15]。
- さまざまな犬種ごとのイヌを繁殖させて販売する業者をイヌのブリーダーといい、各ブリーダーの犬舎を、しばしばケンネル、ケネルとも呼ぶ(英語 kennel から)。各国で犬種の管理等を行う蓄犬団体は「ケネルクラブ」と称し、日本にも社団法人ジャパンケネルクラブがある。
- 1990年代以来のペットブームの中、イヌは高い注目を集めてきている。人気犬種は時代によって変わるが、1990-2000年代に話題を呼んだ犬種としては、シベリアン・ハスキー、ゴールデン・レトリバー、ウェルシュ・コーギー、ブルテリア、ダルメシアン、チワワなどが挙げられる。ブームに比例してドッグウェア(犬に着せる服)も様々な多様化したブランドが進出し、これもまたブームとなっている。
- 最近では、愛犬と飲食できるドッグカフェ、愛犬と運動できるドッグラン、愛犬と旅行中に泊まれるペンションやホテルなどが増えている。また、愛犬を癒すためのドッグセラピーも人気である。
- チャールズ・シュルツの漫画『ピーナッツ』の「スヌーピー(ビーグル)」、佐々木倫子の漫画『動物のお医者さん』の「チョビ(シベリアン・ハスキー)」、ディズニー映画『101』によるダルメシアン、アイフルのテレビCMに出演した「くぅーちゃん(チワワ)」など、テレビ・映画・漫画などの影響で、期せずしてブームとなった犬種もある。また、子犬を鼻先からアップで撮影した「The Dog」シリーズをはじめとして、「じゃがいぬくん」、「しばわんこ」、「お茶犬」、「アフロ犬」、「豆しば」など、イヌをモチーフとする最近のデザインやキャラクター物は、枚挙にいとまがない。しかし、イヌは愛玩動物として飼育されている数が多い分、人間による虐待、虐殺により、命を落とすものや、捨て犬として不法に遺棄されるもの、あるいは飼い主やその家族の身勝手無責任な理由よって保健所に送られるものも少なくない。例年、非常に数多くのイヌや猫たちが、全国の保健所施設で殺処分されている(2006年度で犬86,000頭余)。特定の動物の遺棄や虐待は動物愛護法で処罰されることがある。さらに、離島などで野生化した野犬の存在は、野猫や人為的に持ち込まれたマングースとともに、絶滅が危惧される小動物や陸 地に営巣する鳥類にとって、大きな脅威となっている。鳥獣保護法においては、野犬は狂犬病の感染防止と特定鳥獣の保護の観点からハンターによる銃・わな猟での狩猟対象となっているものの、飼い犬や野良犬との厳密な区別が極めて難しい為に、極端な大規模集団となった野犬群を自治体などからの依頼で猟友会が駆除する場合を除き、積極的に野犬を狩猟対象とするハンターは殆ど居ないのが現状であり、対策は可能な限り野犬を発生させない=飼い主に最後まで責任を持って飼育させる以外には無いというのが現実である。
- 作家太宰治は極度の犬嫌いだったらしく、犬に対する心情(恐怖)を短編「畜犬談」において痛ましくもユーモラスに記している。
- 公園や河川敷など、囲われた所有地以外で飼い犬のリードを外して放し飼いにする者も少なくないが、たとえ短時間であろうともこれは条例違反であり、罰金刑が課せられることもあり得る。
- 千葉県市川市市議会は2009年9月11日条例改正を可決し、2010年4月から路上などの犬の糞の放置や不始末に過料2,000円を科すとした[16]。
- 犬は走る人などを見ると追いかける習性がある。犬が追いかけてきたとき、走って逃げるのは逆効果である。また、犬は階段の上り下りが苦手なので、近くに階段があれば、階段に逃げ込むとよい。
[編集] 脚注・出典
- ^ 既知の有力説の一つを記載。異説多数あり。
- ^ 代表的生物につき、大幅な省略をあえて行わず分類区分を表記する。もっとも、これでもかなりの省略はしており、全容ではないことを書き添えておく。
- ^ 分類学上、未整理の分類群(タクソン)。以下同様。
- ^ 顎口上綱の下位で相克関係にある。
- ^ Macdonald, David; Claudio Sillero-Zubiri (2004). The Biology and Conservation of Wild Canids. Oxford: Oxford University Press. pp. 45–46. ISBN 0198515561.
- ^ おさかな雑学研究会 『頭がよくなる おさかな雑学大事典』 p.123 幻冬舎文庫 2002年
- ^ "- Explore Records - Guinness World Records". 2011年10月7日閲覧。
- ^ ハーツォグ (2011)、235頁。
- ^ a b c ハーツォグ (2011)、236頁。
- ^ a b ハーツォグ (2011)、237-238頁。
- ^ Alphabetical List of Kuniyoshi's Print Seriesより。
- ^ a b ハーツォグ (2011)、67頁。
- ^ ハーツォグ (2011)、238頁。
- ^ a b 『犬は「びよ」と鳴いていた-日本語は擬音語・擬態語が面白い-』
- ^ うれしいとき、犬のしっぽ右に
- ^ 読売新聞2009年9月12日13S版31面
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